霊枢「通天篇」

「人には陰陽の種別があると聞いた、なにを陰として、なにを陽とするのか?」
・自然界のうち、上下四方の中で、一切の事物はみな五という数字から離れることはできない
人もまた五に応じており。一陰一陽だけには限らない
陰陽の人があるというのはおおよそのことを言っているにすぎない
先天的な生理の情況については、言葉によってはっきりと説明することは困難である

「要点をかいつまんでお聞かせいただきたい」
・人はおおよそ、太陰・少陰・太陽・少陽・陰陽和平の五つに分類することができる
この五つの類型の人は形態が異なり、筋骨の強弱や気血の盛衰もそれぞれ同じではない

『五つの類型の人の相違する点を教えて下さい』

「太陰に属するものは」
・性惰が貪欲
・情け深さがなく
・表面は謙虚にして、猫を被っていますが内心は陰険な心を隠している
・得ることを好み失うことを嫌う
・喜怒は顔色に出さない
・目先がきかず、ただ利己的なだけ
・様子を見て風向きの良い方へつく
・行動するときは常に先に人の出方をうかがい、それから反撃して相手を制圧するやり方をする

「少陰に属するものは」
・小利を貪ることを好み邪な心を隠している
・他人の損失をみると、その不幸を喜び有頂天になる
・破壊することや人を傷つけることを好む
・他人の栄誉をみると反感をもち憤慨
・嫉妬心を懐き、人に対する温情もありません

「太陽に属するものは」
・至るところで意見を述べたがり、得意満面
・大きな口をたたくのが好きですが、能力がないので実際と合わない
・高遠な理想のみ抱いて実質がなく、やり方がそそっかしい
・いつも感情的にものごとを処理して自分が正しいと思っている
・自信過剰で、しばしば失敗はするが反省はしない

「少陽に属するものは」
・注意深くことを処理
・自尊心が強い
・ちょっとした地位に就くと傲り高ぶり、表面に立ちたがる
・対外的な交際は長けていますが、世に知られずに仕事に没頭したいとは思わない

「陰陽和平のものは」
・生活が安静で自分で自分を治め処理、名利を気にかけません
・心穏やかなので恐れることはない
・欲望が少ないので分を過ぎた喜びを求めない
・一切の事物の発展の自然法則に従い適応しているので、問題があっても争わない
・形勢の変化に適応することに長けている
・地位が高いけれどもかえって謙虚であり、道理によって人を服従させ、力によって人を統治することはない
・最高に素晴らしい統治能力をもっています

「五種類の形態の人に対処するには、どのように治療をしたらよいのか?」
・太陰の人は陰が多く、陽がない
陰血が濃く濁っており、衛気が滞っているので、陰陽調和することができない
それゆえ筋が弛緩し、皮膚が肥厚する
この体質の人に鍼治療をするときは、その陰分を瀉さなければ病状を好転させることはできません。

・少陰に属するものは、陰が多く陽が少ししかない
胃が小さく、小腸が大きいので、六腑が調和することができません
それゆえ、陽明胃経の脈気が微小で太陽小腸経の脈気が大です
気が少ないので血を摂取することができず、血が失われ気が敗れるという状態に陥りがちです
したがって陰陽盛衰を詳しく調べ、整える治療をしなければいけない

・太陽に属するものは、陽が多く陰が少ないので、慎重に陰陽を調える治療を行わなければいけない
陰気を瀉すことができませんので、陰気の虚脱を防ぎ、陽だけ瀉します
ただし、陽を過度に瀉すことを避けなければいけない
もし、陽気が過度の損傷を受けますと、陽気が外に失われて発狂するという情況を簡単に起こします。
もし、陰陽ともに失われると突然死亡もしくは突然の人事不省に陥ります。

・少陽に属する体質は、陽が多く陰が少ない
経脈が小であり、絡脈が大です。
血が体内の深部にあり、気が体表の浅いところにある
陽が多く、陰が少ないので、治療は陰経を充実させ、陽絡を瀉さなければいけない
もし単独に絡脈を瀉して度が過ぎますと、陽気をすぐ散逸させ、中気不足の状態になるので、治癒し難い

・陰陽調和の人は、陰陽の気が調和し、血脈が和順しています
治療するときは陰陽の盛衰・邪正の虚実を慎重に診察し、患者の容貌所作をつぶさに観察し、臓腑・経脈・気血の有余と不足を診断しなければいけない
虚実に対して補瀉をおこない
虚実がはっきりしない病証に対しては、その本経から取って治療する

「五つの形態の人を弁別するにはどうすればいいのか?」
・太陰の人は顔が黒くくすんで、わざと謙虚な態度をとります
身体はもともと長大なのですが、卑下して人にへつらい、身を屈めて思わせぶりな身振りをします
しかし、実際に佝僂病(くるびょう)に罹っているのではありません
・少陰の人は外見は清廉高潔にみえますが、行動は公明正大ではなく、陰でこそこそしており、陰険で他人を害しようとする邪心を心の底に抱いています
立っているときはいらいら動きまわり落ち着かず、歩いているときは身を伏するようにして進みます
・太陽の人は、外に驕り高ぶり自己満足のさまを表し、腰をのばし胸をはると、体が後に反り返り両のひかがみが折れ曲がるような姿勢をとります
・少陽の人は、立っているときはいつも顔を高く仰向け、歩くときはいつももったいぶって体を揺らし、常に手を背後にまわしています
・陰陽和平の人は、外見がゆったり穏やかで落ち着いていて、振る舞いがゆったりしている
性格は和やかで従順、環境に適応する
態度は厳粛で品行方正、人に対して和やかで親しみやすく、まなざしが慈悲深く優しく、気風は公明正大でさっぱりしており、振る舞いに節度があり、事を処理するにあたって条理がはっきりしている
衆人は徳行がある人と呼びます。

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