霊枢「癰疽篇」

「腸胃に入った水穀は、消化されると、上焦に行き変化して衛気になる。その作用は肌肉を温め、骨と関節を栄養し、腠理を通じさせること
中焦では変化して営気になり、霧露のように上から下へ、肌肉の会合する渓谷にへ注ぎ血が、孫絡に滲入し、津液と混合した後、変化して赤い血液になる。
血が調和していると、まず、すべて孫絡に充満し、孫絡が充満すると溢れて絡脈に入り、すべての絡脈が満ちると、経脈に流入する。
このようにして陰経と陽経のすべてに補給されると、呼吸に随って律動的に運行し、全身の経脈にあまねくいきわたる。
その運行には規則性があり、自然界の事物と同様に絶えることなく運動して停止することがない。
発病したら、脈診をして虚実を診断する。
おおよそ実証には瀉法を用い、瀉法を用いるとあまりあるものを足らなくさせることができる。
刺鍼時に、快速鍼法を用いれば邪気を減衰させることができ、置鍼法を用いると瀉することができず、刺鍼前後の病情が同じになる。
虚証には補法を用い、補法で足らないものを充実させることができる。
治療の目的は血気を調和させることにあり、それによって器質と機能の活動を正常に回復させるのだ
と疾病の有無は気血が平衡であるかどうかということに関係しているのはしっているが、癰疽はどのように発生し、その形成と消散の日数、死生の期日を知らない。
期日の遠いものと近いものがあるが、どのように予測すればよいのか?」

・人の血脈と営衛は、周流して止むことなく、上は天の二十八宿に対応し、下は地の十二経水に対応してます。
もし、寒邪が侵襲して経路の中に繋留すると、血の運行が渋滞して通じなくなり、通じなくなると衛気の運行が阻害されて、血が通じないところで停留し、衛気の循環往来に影響します。
これによって癰腫が発生します。
寒邪がしだいに変化して熱になり、熱が盛んになって勝つと肌肉を腐食し、肌肉が腐ると化膿します。
膿が排泄されないと筋を腐爛し、筋が腐爛すると骨を損傷し、骨が損傷されると骨髄が消耗します。
もし膿毒が骨の空隙になれば、膿毒を排出する手立てがありません。
このようにして営血の虚が引き起こされ、そのために筋骨・肌肉に栄養が行き渡らなくなり、経気血脈もそのために衰弱し損傷します。
毒気が五臓の本体を汚染すると、五臓に重い傷害を受けて死亡するのです。

「癰疽の形状および、禁忌・予後・名称について教えてほしい」
・咽頭部に発生するものを「猛疽」
治療しないと化膿
膿を出せないと咽喉を塞ぐので半日で死ぬ
すでに化膿したものは膿を出し、豕の膏を配合して冷服させると、3日で治癒します。

・頸部に発生したものを「夭疽」
広範囲に及んで顔色が赤黒くなり、緊急に治療しなければ、熱毒が下って淵腋部に転移し、身体前部の任脈を損傷し、内部の肝と肺を薫灼します。
そうなると10日で死ぬ

・陽邪が甚だしく高ぶり、脳髄を消灼して毒邪が項部に滞留凝結して形成されるものを「脳爍」
顔色が暗く、鍼で刺されるように痛みます。
もし、心中悶絶するとなると、死証です。

・肩と上肢のつけ根に発生するものを「疵癰」
痣の色は赤黒く、緊急に治療しなければいけない
この癰にたいする治療は、汗を足にいたるまで出させます。
そうすれば五臓を損傷するにいたりません。
癰が発生して45日後に急いで灸法を行います。

・腋の下に発生し、色が赤くて硬いものを「米疽」
治療は、細くて長い砭石を用い、まばらに砭刺し、さらに豚の膏を塗ると6日で治癒します。
包帯をしてはいけません。
もし、硬くて潰れないときは、それは馬刀、挾癭(瘰癧=結核菌由来のリンパ腫)なので、緊急に治療する必要があります。

・胸部に発生したものを「井疽」
形状は大豆に似ています。
初発から3,4日以内に早期治療しなければ、邪毒が内攻して腹に入り、死証となり7日で死にます。

・臀部に発生したものを「甘疽」
皮膚の青色が現れ、形状は穀粒あるいはトウカラスウリに似て
常に寒熱を発生します。
緊急に治療して、寒熱を退去させなければなりません。
かりに10年延命したとしても、やはり死証です。

・脇部に発生するものを「敗疵」
婦女に多い疾病です。
誤って灸法を用いると、大癰に変じます。
治療後に、その中に赤小豆の大きさの新肉が生長していたら、菱草と連翹の根を各1升取り、水1斗6升を加え、煮詰めて3升とし、強いて熱いうちに飲ませます。
さらに、衣服を重ねて熱い釜の上に坐らせて、汗を出させ、足まで汗が出れば治癒します。

・股脛部に発生するものを「股脛疽」
外見におおきな変化はみられませんが、化膿すると骨膜を腐蝕しますので、緊急に治療しなければ、30日以内に死にます。

・尾骶骨部に発生するものを「鋭疽」
色は赤く、硬くて大きく、緊急に治療する必要があります。
もし、治療しなければ30日以内に死にます。

・大腿内側に発生するものを「赤施」
緊急に治療しないと60日以内に死にます。
両方の大腿内側に同時に発生したものは10日以内に死にます。

・膝部に発生したものを「疵疽」
外見は腫れて大きいですが、患部の皮膚の色に変化はなく、寒熱する。
石のように硬いときは、砭法を用いてはいけない。
もし、あやまって砭法を用いると死にます。
柔軟になるのを待ったあとに砭石で治療すれば救うことがきます。

・おおよそ関節の上下左右に相対的に生じる癰疽は不治の病
陽分に生じるものは100日で、陰分に生じるものは30日で死にます。

・足くびに発生するものを「とげつ」
その外見は赤く、骨部まで深く侵入しるので、緊急に治療する必要があります。

・内踝部に発生するものを「走緩」
外見は癰のようですが皮膚の色に変化はありません。
しばしば、砭石で腫れている部位を刺し、寒熱を退去させれば死ぬことはありません。

・足部の上下に発生するものを「四淫」
外見は大癰ににており、緊急に治療しなければ、100日以内に死にます。

・足傍に発生するものを「厲癰」
初発時は小指大ですが、現れたら緊急に治療して、すでに黒く変化している部分を除去しなければいけない。
除去しなければ、すぐに悪化し、100日以内に死にます。

・足指上に発生するものを「脱癰」
外見に赤黒い色が現れているものは不治の病
赤黒い色が現れていないものは死にません。
病勢が衰退しないものは速やかに切除しないと死んでしまいます。

「癰と疽の鑑別は?」
営衛が経脈の中で繋留→血が渋滞→めぐらなければ衛気が流れない→そうすると鬱滞して熱を発生→高熱が続き肌肉を腐爛
内部に陥入しなければ五臓は損傷をうけないので「癰」と呼ぶ

熱毒が強く、肌膚に陥入して、筋や髄を枯渇させ、さらに五臓にまで影響を及ぼし、気血を損傷し枯渇すると、その癰腫の下の組織はすべて破壊しつくされるので「疽」という

「疽」の場合、患部の皮膚が黒っぽくて潤いがなく、牛の頭のように硬くなる
「癰」の場合、患部の色は薄く、光沢があります。

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