霊枢「玉版篇」

「小鍼は極めて小さなものだと思っていたが、その働きは上は天、下は地、中は人に合致するというが過大評価ではないのか?」
・鍼より大きいものとされるものは、五種類(五兵)の兵器だけです(刀、剣、矛、戟、矢)
しかし、その兵器はすべて戦争のときに用いて人を殺すためのもので、病を治し人を活かす道具ではありません。
しかも、天地の間でもっとも尊いものは人であり、どうしてその人が自然界の現象に参与しないことがありましょうか。
人々の疾病を治療するのは小鍼しかないのです。

「病が発生したとき、喜怒が計り知れず、飲食に節度がなく、陰気が不足したり、陽気に余りがあったりして、営気が停滞して巡らなくなり、癰疽が出来ることがある。
さらに営衛の気血が遮られ滞って通ぜず、体内の陽熱の気と邪熱が互いにぶつかりあって変化して膿になる。
このような病気は小鍼で治せるのか?」
・聡明な人は病が現れると、必ず早期に治療しますが、病が形成されてしまえば、もう一度取り除こうとして思っても、簡単ではありません。
膿血が形成されてしまってから微鍼で治療をしようと思ってもあまりにも遅すぎる
聡明な人は病気を未然に防ぎ、積極的に予防して癰疽(はれもの)を生じさせないようにします
愚鈍な人は、前もって予防治療することを知らず、病が形成された後の苦痛に遭ってしまうのです。

「膿がすでに形成されていて、それが内蔵にできたため手で触れることができなかったり、また膿がすでに形成されていて、これもまた見ることが出来ない場合はどうすればいいのか?」
・膿がすでに形成された場合、十に一つしか助かりません。
したがって聡明な医者は萌芽段階で消してしまいます。

「すでに出来てしまった膿血はどうすればいいか?」
・砭石、蜂針、鈹鍼を用いて膿をすぐに出すしかありません

「癰疽の病で悪化の一途をたどるものが多い、それらは治せるのか?」
・それは、病証の逆順できまります

「病証の逆順とは?」
・白目が青く、黒目が小さいもの
・薬をのんで嘔吐する
・腹が痛み、のどが乾きひどいもの
・肩と首の動きが不自由なもの
・声がしゃがれて、顔色に血色がないもの
これらを除いたものが順証

「それぞれ、病の進行する過程や予後には良し悪しがあるが教えてもらいたい」
【予後不良】
・腹が腫れ、からだ発熱し、脈が大になるもの
・腹が満ちて腸が鳴り、四肢冷え、下痢をし、脈が大なるもの
・鼻血が止まらず、脈が大のもの
・咳が出て、血尿で、肌肉がやつれ、脈が小さく早いもの
・咳が出て、肉体が異常に衰弱し、身体が熱くなり、脈が小さく早いもの
以上の症状が出る場合、15日以内に死んでしまう可能性がある

・腹が大きくなって膨れ、四肢冷え、肉体が極度にやつれ、薄い大便が止まらないもの
・腹が膨れて満ち、血便し、脈が大でときどき絶えるもの
・せきが出て、血尿で、肉体が極度にやつれ、脈が強く打って調和した穏やかな打ち方ではないもの
・吐血し、胸部が膨れて満ちて背部にまでおよび、脈が小で力強いもの
・咳をして嘔吐し、腹がふくれ、下痢となり、食物を完全に消化できず、脈が絶えてこなくなるもの
以上の症状が出る場合、1日以内に死んでしまう可能性がある

・鍼による治療が適切でなければ人を死に至らしめます。しかし、いくら適切であっても死んだ人を救うことはできません。

・胃は水穀を納め、気血に生成変化させるところです。
気血を巡らすのは五臓六腑の大絡です、もしその場所に迎えて奪うと真気を誤って瀉し人を死に至らしめます。

・手の陽明大腸経にある「五里」に刺すと蔵気の運行が途中でとまり
5回連続で迎えて奪うと、ひとつの蔵の真気は瀉されてつきます。
連続で25回瀉すと、五蔵に注ぐ精気は絶えてしまい、その人の命が自然と絶えて寿命をまっとうできません。

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