霊枢「九鍼論篇」

「九鍼とはどのようにうまれたのか?どんな根拠でそのような名前がついたのか?」
九鍼は天地の大数を法則として生まれた
天地の数理は1からはじまり9に終わる
第一鍼は天を模範
第二鍼は地を模範
第三鍼は人を模範
第四鍼は四時を模範
第五鍼は五音を模範
第六鍼は六律を模範
第七鍼は七星を模範
第八鍼は八風を模範
第九鍼は九野(分野のこと)を模範

一の数は、天になぞらえ象っている
天は陽に属します
人体五臓においては「肺」が呼吸を主り
外は天気と相応じます
肺は最も高い位置にあり、五臓六腑の華蓋である
肺の外合は皮毛であり、皮毛は体表にあり、陽分に属します
したがって鑱鍼を制作するときの鍼の形状は、必ず鍼頭を大きくし、鍼尖を鋭利にして、浅刺に適して深刺を抑えるようにします。
邪気が皮膚にある病証の治療に用いて、陽気を排出して、表熱を解消します。

二の数は、地になぞらえ象っている
人体五臓においては「脾」に応じ、脾は土に属し、肌肉を主ります
したがって円鍼を制作するときの鍼の形状は、鍼身の形状を竹管のように円く真っ直ぐにし、鍼の尖端を卵円形にし、邪気が肌肉にある病証の治療に適用します。
刺したときに肌肉を損傷してはいけない
もし過度に肌肉を損傷しますと、脾気を衰弱させ尽きさせてしまうでしょう

三の数は、人になぞらえ象っている
人の生命の形状は、血脈の供給する栄養に頼っています
したがって血脈の病証を治療する目的に適応するため「鍉鍼」を採用
その鍼身を大きくし、鍼尖を円くします
そうすれば穴位を按摩して、血脈を疎通させることができます
正気を導いて充実させることができれば、邪気は独りでに外に出ていきます
深く刺入しすぎて、却って邪気を内に引き入れる事態にはなりません

四の数は、四時になぞらえ象っている
四時八方の風邪が人体の経絡中に侵入しますと、血脈を滞らせて、しだいに頑固で長引く病証を形成します
これを治療するときは、必ず鋒鍼(三稜鍼)を用います
その形状は鍼身が円くまっすぐで、鍼尖は蜂のように鋭くします。
これを用いて刺絡し放血し、瘀血と熱を瀉せば、痼疾の病根を除くことができる

五の数は、五音になぞらえ象っている
音は五であり、一九両数の中間に位置する
一の数は、冬至に一陽が初めて生ずる時を表し、月建は子(干支)にあります
九の数は、夏至に一陰が初めて生ずる時を表し、月建は午(干支)にあります
そして、五の数は、ちょうど一と九の中央に当たり、暑さが去り寒さが来るように、陰陽の消長はここでわかれます
人体において、寒熱が調わず、両気が闘い結合しますと、癰腫を形成して化膿しますので、鈹鍼を適用します。
その形状は、鍼尖を剣のきっさきのように鋭くし、癰疽を刺し破って、膿血を排出できるようにする

六の数は、人になぞらえ象っている
六律は音声を調和し、陰陽を分け、四時十二辰に対応し、人体の十二経脈を統合している
もし、虚邪賊風が人体の経絡に侵入して、陰陽の調和を失わせ、気血が閉塞すると、痺証を暴発する
したがって、員利鍼を採用
その鍼尖は馬尾のように円くかつ鋭利にし、鍼身はやや大きくして急性病の治療に適用する

七の数は、七星になぞらえ象っている
七星は、人体において七竅に対応
もし、邪気が孔竅から経絡に侵入し、久しく留まって去らないと痛痺を発生させます。
それゆえ、毫鍼を適用し、その鍼尖は蚊か虻のくちばしのように微細にいたします。
治療時には静かにその気を候いゆっくり鍼をすすめ、軽微に刺入しなければいけない
置鍼時間を長くし、それによって正気を導き充実させます
邪気が消散しさえすれば真気もまたすぐに回復いたします。
抜鍼後もさらに療養を継続しなければいけない

八の数は、八風になぞらえ象っています。
八風は、人体では八つの大関節に対応しており、もし四季の気候が異常になりますと、八方の虚邪賊風が人体を侵襲し、深部に侵入して骨の隙間・腰部脊椎関節と腠理の間に留滞して、邪が深部にあるための痺証になります。
したがって長鍼を適用し、鍼身を長くし、鍼尖をきっさきのように鋭くして、邪気が深部にある慢性の痺証を治療できるようにいたします。

九の数は、九野になぞらえ象っています。
九野は、人体においては全身の関節空隙と皮膚の間に対応しています。
邪気が盛んになりすぎて全身に蔓延しますと、浮腫が現れ、風水のような状態になります。
これは、水気の流注が関節を通過できないために、皮下に水がたまって腫れるのです。
したがって、大鍼を採用し、その形状は鍼尖を杖のようにし、きっさきを少し円くし、鍼身を大きくします。
瀉法に適用して、関節を通利させ、大気をめぐらします。
気がめぐれば、たまっていた水も自然に排除されます。

「九鍼の大小、長短と製法」
・第一の鍼「鑱鍼」
巾鍼の様式に倣って制作、鍼頭は大きく、末端から約半寸ばかりのところから、やじりのように鋭く突出させる
長さは一寸六分
浅刺に適用し、表皮の陽気を瀉す
熱が頭身にある証を主に治療する。

・第二の鍼「員鍼」
絮鍼の様式に倣って制作、鍼身竹管のように円く真っ直ぐで、鍼尖は卵円形にします。
長さは一寸六分
邪気が分肉の間にある疾病を主に治療する。

・第三の鍼「鍉鍼」
黍や粟の形状に倣って制作
長さは三寸半
経脈を按摩して、気をめぐらし血を活性化させ、邪気を体外へ排出します。

・第四の鍼「鋒鍼」
巾鍼の様式に倣って制作、鍼頭は大きく、末端から約半寸ばかりのところから、やじりのように鋭く突出させる
長さは一寸六分
浅刺に適用し、表皮の陽気を瀉す
熱が頭身にある証を主に治療する。

・第五の鍼「鈹鍼」
その鍼尖が剣のように鋭利であることからそう呼ばれています。
幅は二分半、長さは四寸
寒気と熱気が争って結合し、癰腫を形成し、さらに化膿する病証を主に治療します。

・第六の鍼「員利鍼」
その形状は馬尾のように細長く、鍼尖をやや大きく、鍼身を反対に小さくし、深く刺入できるようにします。
長さは一寸六分
癰腫と急性の痺証を主に治療します。

・第七の鍼「毫鍼」
その形状は豪毛のように極めて長く
長さは一寸六分
絡に邪があるときの感熱痛痺を主に治療します

・第八の鍼「長鍼」
その形状は綦鍼の様式に倣って制作します。
長さは七寸
邪が深部にある慢性の痺証を主に治療します。

・第九の鍼「大鍼」
その形状は鋒鍼に倣って制作します。
鍼は長くほぼ円形で杖のように粗大です
長さは四寸
大気が関節を通過できず、水が溜まって腫れる病証を主に治療します。

「人の身体の九野とどのように対応している?」
・春と夏は陽に属し、陽気は左から昇り、下から上へ行きますので人の左足が東北に対応し、節気では春分に対応、日辰では戊寅と己丑に当たる。
・左脇は東方に対応し、節気では春分、日辰では乙卯
・左手は東南方に対応し、節気では夏至、日辰では戊辰と己巳
・前胸と咽喉と額面は南方に対応し、節気では夏至、日辰では丙午
・秋と冬は陰に属し、陰気は右から降り、上から下にいきますので右手は西南方に対応し、節気では立秋、日辰では戊申、己未
・右脇は西方に対応し、節気では秋分、日辰では辛酉
・右足は西北方に対応し、節気では立冬、日辰では戊戌と己亥
・腰と尻と下竅は北方に対応し、節気では冬至、日辰では壬子

・からだが安逸であるが、こころに苦悶のある人は、脈に病を生じる事が多い→治法は鍼灸がよい

・からだもこころも快適で、安逸を好み労苦を嫌う人、肌肉に病を生じる事が多い→治法は鍼と砭石がよい

・からだが労苦し、こころにも苦悶のある人は、咽噎に病を生じる事が多い→治法は甘薬がよい

・からだが過労であるが、こころの愉快な人は、筋に病を生じる事が多い→治法は温罨法と導引がよい

・しばしば驚きと恐れを感受し、こころもからだも安らかではない人は、筋脈の気血が通じなくなり、肢体の感覚麻痺になりやすい→按摩と薬酒通い

「五蔵の気が失調すると」
・心気が伸びやかではない→ゲップ
・肺気が通利しない→咳嗽
・肝気が鬱結→ことばが多い
・脾気が調和しない→呑酸
・腎気が衰弱→あくび

「五味が胃に入った後、それぞれの属性に対応する蔵府にはいる」

・酸味は肝
・辛味は肺
・苦味は心
・甘味は脾
・塩辛味は腎

「五臓が化成する五液」
・心は汗
・肝は涙
・肺は涕(鼻水?なみだ?)
・腎は唾液
・脾は涎

「過度の労苦あるいは安逸がまねく損傷」
・長い間視る→心血
・長い間横たわる→肺気
・長い間座っている→肌肉
・長い間立つ→骨
・長い間歩く→筋

「五味のそれぞれ向かうところ」
・酸味→筋
・辛味→気
・苦味→血脈
・塩辛味→骨
・甘味→肉

「飲食に関する五つの節制」
・酸味→収瞼作用
病が筋にあるときは収瞼作用は好ましくないので酸味を多用してはいけない
・辛味→発散作用
病が気にあるときは発散作用は好ましくないので辛味を多用してはいけない
・塩辛味→堅いものを柔らかくする性質
病が骨にあるときは軟化作用は好ましくないので塩辛味を多用してはいけない
・苦味→乾燥作用
病が血にあるときは乾燥作用は好ましくない
・甘味→塞いで滞らせ湿を助ける作用
病が肉にあるときは鬱滞は好ましくないので酸味を多用してはいけない

「五臓は陰陽に分類され、その発病部位と季節にも違いがある」
・腎は陰蔵→骨の病が多い
・心は陽蔵→血脈の病が多い
・飲食の五味が脾を損傷→精気不足の病
・陽が虚して病気になる→冬の発症が多い
・陰が虚して病気になる→夏の発症が多い

「五邪が五蔵を乱す病変」
・陽邪が陽分に入る→狂
・陰邪が陰分に入る→血脈渋滞で痺証
・邪気が陽に入ると→頭部の疾患が発生
・陽邪が陰に入ると→瘖唖(聴覚機能、言語機能を共に欠いている者)になる
・陽気が収斂し、下降して陰分に入ると、その病態の多くは静か
・陽気が逆上し、陰から陽へ出ると、その病態は激動し、よく怒る

「五臓が主るもの」
・心は全身の血脈を
・肺は全身の皮毛を
・肝は全身の筋膜を
・脾は全身の肌肉を
・腎は全身の骨格を

「手足の各経絡の気血の多少」
・陽明経 血↑気↑
・太陽経 血↑気↓
・少陽経 血↓気↑
・太陰経 血↑気↓
・厥陰経 血↓気↑
・少陰経 血↓気↑

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